アスベスト調査に関する法改正について
法改正の概要、規制の変遷、発注者と施工者の責任、関連法令
法令改正の概要
耐久性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、防音性などの特性に非常に優れ安価であるため
「奇跡の鉱物」として世界中で広く使用されていたアスベストですが、その危険性が認知されてからは規制が行われました
日本では1970年代から1990年代の建築物にアスベスト含有建材が多く使用されています
2022年4月1日からはすべての建築物と特定の工作物について一定規模以上の解体や改修工事は石綿の有無の事前調査結果の報告が義務化され
2023年10月1日からはこの調査を有資格者が行うことが義務化されました
一定規模以上とは
- 全ての建築物の解体部分の床面積の合計が80m2以上
- 全ての建築物の改修工事では請負金額が税込み100万円以上
- 特定の工作物では解体改修共に請負金額が100万円以上
※建築物の改修工事とは、建築物に現存する材料に何らかの変更を加える工事であって、建築物の解体工事以外のものをいい、リフォーム、修繕、各種設備工事、塗装や外壁補修等であって既存の一部の除去・切断・破砕・研磨・穿孔(穴開け)等を伴うもの
定期改修や、法令等に基づく開放検査等を行う際に補修や部品交換等を行う場合を含む
報告対象となる工作物は以下のもの(事前調査自体は以下に限らず全て必要)
- 反応槽、加熱炉、ボイラー、圧力容器、煙突(建築物に設ける排煙設備等の建築設備を除く)
- 配管設備(建築物に設ける給水・排水・換気・暖房・冷房・排煙設備等の建築設備を除く)
- 焼却設備、貯蔵設備(穀物を貯蔵するための設備を除く)
- 発電設備(太陽光発電設備・風力発電設備を除く)、変電設備、配電設備、送電設備(ケーブルを含む)
- トンネルの天井板、遮音壁、軽量盛土保護パネル
- プラットホームの上家、鉄道の駅の地下式構造部分の壁・天井板
参考:厚生労働省 石綿総合情報ポータルサイトhttps://www.ishiwata.mhlw.go.jp/
アスベスト規制の変遷
1960年 じん肺法が制定
1971年 特定化学物質等障害予防規則が制定
1972年 労働安全衛生法が制定
1975年 5重量%を超えるアスベストの吹き付け作業が原則として禁止される
1995年 安全衛生施行令、安全衛生施行規則、特化則の改正され1重量%超まで規制対象が拡大
2004年 安衛令が改正され、石綿を含有する10品目の製造等が禁止された
2006年 0.1重量%を超えるアスベスト製品の製造、輸入、譲渡、提供また使用が禁止
改正当初は、一部の製品について猶予措置がとられていましたが、2012年に猶予期間が終了
2012年以降、アスベスト製品が全面禁止されたため現在では建物の建築や製品の製造の場面においてアスベストが使用されることはありません
参考:厚生労働省 労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(石綿関係)https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/sekimen/hourei/index.html
発注者や施工者がやるべきこと
工事でアスベストを飛散させないために工事の計画を作成し、所定官庁に提出する必要があります
工事の作業者と工事現場の周辺で生活している住民がアスベストによる被害を受けた場合は発注者と施工業者が罰則の対象となります
過去の法改正によって改正時点で合法だった建築物および建材が2006年以降は既存不適格となっています
保有している建築物等に対して、アスベストの維持保全調査を行なっていても2006年以降の基準を満たしていない建材を使用している可能性があります
※アスベスト含有建材が使用されているのは2006年9月以前に着工された建物のため
築16年未満の建築物の場合はアスベストを使った建材は使われていないので調査は必要ありません
※木材・金属・石・ガラスなどのみで構成される建材を対象とした工事の場合は、素材にアスベストが含まれていないことが明白であるため事前調査は不要とされます
※畳・電球などの除去作業においても、素材そのものにアスベストが含まれていないことが明白であるため事前調査は不要ですが、除去作業において周囲の素材を損傷する可能性がある場合については事前調査が求められます
※材料に極めて軽微な損傷しか与えないケース
釘抜き・釘打ち等、材料に対して極めて軽微な損傷しか与えないケースでは作業に伴いアスベストが飛散するリスクがないため、事前調査は求められません
ただし、電動工具を用いて材料に穴をあける場合「極めて軽微な損傷」には該当しません
アスベストの危険性
健康被害
アスベストは人の髪の毛の直径の1/5000と肉眼では見ることのできないきわめて細い繊維であり
飛散すると空気中に浮遊しやすく、人の肺胞に沈着しやすい特徴があります
吸い込んだアスベストの一部は異物として体外へ排出されますが、アスベスト繊維は丈夫で変化しにくい性質のため肺の組織内に長く滞留します。この体内に滞留したアスベストが要因となって肺の繊維化や肺がん、悪性中皮腫などの病気を引き起こすとされています
関連疾病
石綿肺
肺が線維化する肺線維症(じん肺)という病気の一つです。肺の線維化を起こすものとしては石綿のほか、粉じん、薬品等の原因があげられますが、石綿のばく露によっておきた肺線維症を特に石綿肺とよんで区別しています
職業上アスベスト粉塵を10年以上吸入した労働者に起こるといわれており、潜伏期間は15~20年といわれております。アスベストばく露をやめたあとでも進行することもあります
肺がん
石綿が肺がんを起こすメカニズムはまだ十分に解明されていませんが、肺細胞に取り込まれた石綿繊維の主に物理的刺激により肺がんが発生するとされています
また、喫煙と深い関係にあることも知られており、アスベストばく露から肺がん発症までに15~40年の潜伏期間があり、ばく露量が多いほど肺がんの発生が多いことが知られています
悪性中皮腫
肺を取り囲む胸膜、肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜、心臓及び大血管の起始部を覆う心膜等にできる悪性の腫瘍です
若い時期にアスベストを吸い込んだ方が悪性中皮腫になりやすいことが知られており、潜伏期間は20~50年といわれています
労災認定
アスベストで健康被害にあわれた方には2つの支援制度があります
労働者等の方がアスベストにさらされる業務に従事していた場合に労働者災害補償保険制度(労災保険制度)やその他の災害補償制度により補償を受けることができます
上記の制度による補償を受けられない場合には石綿健康被害救済制度による救済給付を受けることができます
労働者災害補償保険制度(労災保険制度)
労災保険給付を受けるためにはその病気が仕事が原因で発病したものであると労働基準監督署長から認定を受ける必要があります
労災保険制度の詳しい情報については,最寄りの都道府県労働局や労働基準監督署にお問い合わせください
石綿健康被害救済制度
下記の方が救済給付の申請・請求をすることができます
- 日本国内でアスベストを吸入することにより指定疾病にかかり現在療養されている方
- それらの指定疾病に起因してお亡くなりになった方のご遺族
指定疾病とは中皮腫、石綿による肺がん、石綿肺及びびまん性胸膜肥厚です
(石綿肺、びまん性胸膜肥厚については著しい呼吸機能障害を伴うものが救済対象)
この制度による救済給付を受けるためにはアスベストが原因で発症した指定疾病にかかった者であると環境再生保全機構から認定を受ける必要があります
石綿に関連する規制
- 労働安全衛生法、労働安全衛生法施行令、労働安全衛生規則
労働者の健康被害を防止する目的の法令・政令・省令であり石綿に関する項目があり違反があった場合は3月以下の懲役又は30万円以下の罰金となる - 特定化学物質等障害予防規則
健康障害を引き起こす可能性がある特定化学物質により作業者が健康を害さないように作業方法や設備などのルールを定めた規則 - 石綿障害予防規則
石綿の発癌性に関する規制を行っていた特定化学物質等障害予防規則(特化則)から独立させ発展させた石綿含有建材による今後の石綿飛散の防止を目的とした規則 - 大気汚染防止法、大気汚染防止法施行令
大気の汚染に関し国民の健康を保護するとともに生活環境を保全することを目的とした法律で「ばい煙の排出規制の排出抑制」、「粉じんの排出規制」、「有害大気汚染物質の対策の推進」などが規定されている
違反があった場合は3月以下の懲役又は30万円以下の罰金となる - じん肺法、じん肺法施行規則
労働者の健康の保持その他福祉の増進に寄与することを目的とし
特にじん肺に関して適正な予防及び健康管理その他必要な措置を講ずることを定めたもの
最後に
アスベストによる健康被害はばく露から発症までが15年~50年と潜伏期間が長く、吸い込んだ量に比例して発症するケースや吸い込んだ年数に比例して発症するケースもあります
若年時にアスベストのばく露があると発症リスクが上がるため、学校や公的に使われる施設については優先的に調査や対策が取られてきました
しかし、民間における中小規模の建築物および工作物については未調査・未対策のものが多く存在するといわれております
建築物の表面に表れている「仕上げ材」については破損しない限りはアスベスト飛散のリスクは低いと目されており、注意するべきはレベル1とレベル2に該当する吹き付けた綿状のものと繊維を板状に成形した断熱材等です
通常は天井裏や壁内、配管の周囲に使用されており日常生活において目にする機会はありませんが
解体・改修工事などでそれらの材料が破損される場合については特に注意が必要です
自身の健康のみならず家族や周囲の人にまで被害を及ぼす可能性がありますので
解体・改修業者の方や解体・改修工事の発注者の方についてはアスベストの危険性を知ったうえで業務を行っていただき
また建築物を長く安全に使用するためにも維持保全の調査を行い、現状を把握した状態で建築物の運用をしていただきたく思います